退職金とiDeCo、どちらを先に受け取るかで必要な間隔が変わる
退職所得控除は「勤続年数」で決まりますが、近い時期に2回受け取ると、重なっている期間の分だけ控除が減ります。 減らないために必要な間隔は、確定拠出年金が先なら10年、退職金が先なら20年で、順番によって倍近く違います。その条文上の根拠を整理します (条文は2026年8月18日にe-Govから本文を取得して確認)。
最初に押さえること:令和8年1月1日から、確定拠出年金の一時金にかかる年数が 4年内から9年内に延びました。
所得税法施行令第70条第1項第2号ロは、令和8年1月1日以後に支払を受けた確定拠出年金の老齢一時金について「前年以前九年内」と定めています。 いま出回っている「iDeCoは5年空ければよい」という記述の多くは、 同日より前の支払を前提にした旧法の説明です。
3つのパターンと、必要な間隔
条文は「今年 何を受け取るか」と「前に何を受け取ったか」の組み合わせで、 さかのぼる年数を3つに分けています。
- イ
退職金 → 退職金:前年以前4年内
会社の退職金を受け取ったあと、また会社の退職金を受け取る場合です。4年内に入らないようにするには5年以上あけることになります。 転職して2社から退職金を受け取る人が当たります。
根拠:所得税法施行令第70条第1項第2号イ - ロ
確定拠出年金 → 退職金:前年以前9年内(令和8年1月1日以後の支払)
企業型DC・iDeCoの老齢一時金を先に受け取り、そのあと会社の退職金を受け取る場合です。10年以上あける必要があります。 これが「10年ルール」と呼ばれるものです。令和8年1月1日より前に支払を受けた一時金は、イと同じ4年内のままで、条文にも「令和八年一月一日前に支払を受けた退職手当等であつてその年の前年以前四年内に 支払を受けたもの」と書き分けられています。
根拠:所得税法施行令第70条第1項第2号ロ - ハ
退職金 → 確定拠出年金:前年以前19年内
会社の退職金を受け取ったあと、確定拠出年金の老齢一時金を受け取る場合です。20年以上あける必要があり、 3つのなかでいちばん長くなります。定年で退職金を受け取ってから、 iDeCoの一時金を後ろにずらそうとする人が当たります。
根拠:所得税法施行令第70条第1項第2号ハ
「前年以前9年内」は、今年から見て前年から9年前までの範囲を指します。範囲の外に出すには10年以上あけることになるため、 「9年内」が「10年ルール」、「19年内」が「20年ルール」と呼ばれます。 記事によって数字が1つずれて見えるのは、条文の「◯年内」と、通称の「◯年ルール」の数え方が違うためです。
改正で何が変わるか(計算例)
2006年4月から2026年3月まで企業型DCに加入していた人が、2026年に一時金1,000万円を 受け取り、2033年に勤続27年(2006年4月〜2033年3月)の退職金2,000万円を受け取る場合。
| 項目 | 旧法の考え方(4年内) | 現在(9年内・令和8年1月1日以後の支払) |
|---|---|---|
| 2026年の一時金は判定の対象か | 対象外(2033年から見て4年内は2029年以降) | 対象(2033年から見て9年内は2024年以降) |
| 重複期間 | 0年 | 20年 |
| 退職所得控除額 | 12,900,000円 | 4,900,000円 |
| 課税退職所得金額 | 3,550,000円 | 7,550,000円 |
| 税金の合計(所得税+住民税) | 643,432円 | 1,878,610円 |
| 手取り | 19,356,568円 | 18,121,390円 |
同じ受け取り方でも、控除額が8,000,000円小さくなり、 税額は1,235,178円増えます。 この例は「一般退職手当等」「「退職所得の受給に関する申告書」提出済み」「障害退職ではない」を前提にした概算です。
「間隔」より先に見るべきは、期間が重なっているかどうか
年数の話が目立ちますが、条文が減額の対象にしているのは期間が重なっている場合だけです。施行令第70条第1項第2号は 「勤続期間等の一部がその年の前年以前に支払を受けた退職手当等に係る勤続期間等と 重複している場合」に、「その重複している部分の期間」を勤続年数とみなして計算した金額を差し引く、と定めています。
つまり、さかのぼる期間の中に前の受け取りがあっても、勤続期間と加入者期間がまったく重なっていなければ控除は減りません。 たとえば会社を辞めてから自営業になってiDeCoに加入した人のように、 期間が前後に分かれている場合です。逆に、在職中ずっと企業型DCに入っていた人は、 期間がほぼ全部重なります。
重なっている期間に1年未満の端数があるときは切り捨てます(同条第3項)。 そして減額したあとの控除額が80万円に満たない場合は80万円になります(所得税法第30条第6項第2号)。
前の退職金が少なかった人への調整
見落とされやすいのが施行令第70条第2項です。前に受け取った額が、その勤続年数で計算した控除額に満たなかった場合は、 前の勤続期間をまるごと重複とはせず、次の年数まで短くして計算します。
- 前の収入金額が800万円以下:収入金額 ÷ 40万円
- 前の収入金額が800万円超:(収入金額 − 800万円)÷ 70万円 + 20
いずれも1未満の端数は切り捨てます。たとえば勤続20年で退職金300万円だった人は、 300万円 ÷ 40万円 = 7.5 → 7年分だけが重複の対象です。 早期退職や中小企業からの転職で退職金が小さかった人は、 この調整で減額がかなり小さくなることがあります。
受け取り時期を考えるときの注意
税金だけを見れば間隔をあけるほど控除は残りますが、受け取り時期は税金以外の条件にも縛られます。 確定拠出年金の老齢給付金を請求できる年齢には範囲があり、 いつまでも先送りできるわけではありません。 受け取るまでの間は運用が続き、口座管理手数料もかかります。 退職の時期そのものを自由に選べないことも多いはずです。
当サイトはどの順番が有利かという判断は示しません。 条件によって答えが変わるうえ、それは個別の税務判断に当たるためです。重複判定ツールで年を動かしながら、控除と税額がどう変わるかを見比べる材料としてお使いください。 実際の手続きや金額の確定は、勤務先の担当部署・運営管理機関・ 所轄の税務署または税理士にご確認ください。
なお、企業型DCの資産をiDeCoなどへ移していない場合は、そもそも受け取りの前に 移換の手続きが必要になることがあります。移換していない資産は 自動移換となり、その間は運用されず手数料がかかる扱いがあります。 手続きの詳細は運営管理機関または国民年金基金連合会にご確認ください。
出典
- 国税庁 No.2732 退職手当等に対する源泉徴収 / 2026年8月18日確認(HTTP 200)収録: 勤続年数の数え方 / 課税退職所得金額の区分別算式 / 短期退職手当等の300万円基準 / 課税退職所得金額の1,000円未満切捨 / 重複期間がある場合の控除(イ=4年内/ロ=9年内・令和8年1月1日以後のDC一時金/ハ=19年内) / 前の退職手当等が少額の場合の期間圧縮の算式 / 減額後が80万円未満なら80万円・障害退職はそこに100万円加算
- 所得税法 第30条(退職所得) / 2026年8月18日確認(HTTP 200)収録: 退職所得控除額(第3項) / 前年以前に他の退職手当等がある場合の控除減額(第6項第1号) / 80万円の下限(第6項第2号) / 障害退職の100万円加算(第6項第3号) / 短期退職手当等・特定役員退職手当等の定義
- 所得税法施行令 第69条(退職所得控除額に係る勤続年数の計算) / 2026年8月18日確認(HTTP 200)収録: 勤続期間による勤続年数の計算 / 1年未満の端数は1年に切上げ(第2項) / 確定拠出年金の企業型年金加入者期間・個人型年金加入者期間の合算(第1項第2号) / その年に2以上の受け取りがある場合(第1項第3号)
- 所得税法施行令 第70条(退職所得控除額の計算の特例) / 2026年8月18日確認(HTTP 200)収録: 重複期間の控除(第1項第2号) / 前年以前4年内(イ) / 前年以前9年内・令和8年1月1日以後のDC一時金(ロ) / 前年以前19年内(ハ) / 前の退職手当等が控除額に満たない場合の期間圧縮(第2項) / 重複期間の1年未満切捨て(第3項)
- 所得税法施行令 第72条(退職手当等とみなす一時金) / 2026年8月18日確認(HTTP 200)収録: 第3項第七号=確定拠出年金法の企業型年金規約・個人型年金規約に基づく老齢給付金として支給される一時金 / 小規模企業共済の共済金(第3項第三号) / 中小企業退職金共済の退職金(第3項第二号)
このページは条文および国税庁の公表資料にそった一般的な説明であり、税務相談ではありません。個別の判断が必要なときは 所轄の税務署 または税理士にご相談ください。